− 春 −
『 テニプリ・不二 周助 』
桜の花が膨らみだし、ゆっくりと花を開く時を待っている頃、
冷たい空気は太陽に温められ、それまで着ていたコートを脱ぎ、
カーデガンへと変え、いつもの木の下で、
本を読みながら、桜乃や朋と帰る時間を待つ。
温かな陽気の中、聞こえてくるは、指示を出す声にグリップ音。
聞き慣れない音に、度々視線を動かしコートを見る。
緑のジャージの中にある、3つの青
今まで見てきた場所なのに、違和感を感じるのは、
3年生が卒業し、学校に出てこなくなった為、
レギュラーの人数が減り
いつもの音が、聞こえなくなった。
グリップ音だけで、コートで試合をしているのが誰なのかが解った。
その音も、聞こえてこない。
温かで優しい風なのに、どこか寒さを感じる。
「10分間、休憩」
聞こえてくる声に、本から少しだけ集中力を離す。
いつも話し掛けてくる人を待つ。
1分
2分
時間が止まる事なく進む中、話し掛けてくれる人がいないのだと実感する。
不二先輩はココには居ない・・・
頭で作った言葉を心で理解すると、涙が1粒、落ちた。
本の上に2つ跡を残す。
悲しい・・・
寂しい・・・
眼を閉じてしまいたくなる・・・・
零れてしまった涙を拭き取り、本の世界に入っていく。
かなしい・・・
うん、悲しいね。
さみしい・・・
会って、話がしたい・・・
主人公に感情を入れ過ぎたのだろう・・・
沸き上がる気持ちを悲恋小説のセイにし、ゆっくりと空を見上げた。
『テニプリ・幸村 精市』
土色が目立っていた花壇に、小さな芽が、暖かさに引かれ、
いつの間にか蕾が付き、せっかちなモノは花を咲かせた。
「早咲きだね」
水やりの手伝いをしてくれていた、彼の言葉に振り返れば、膝を折り、
咲いたばかりのチューリップを見ていた。
お互い無事中学を卒業し、高校へ入学した。
住む場所が違うので、同じ学校ではなく、違う学校。
附属の彼は持ち上がり入学。
自分は必死に受験をして、念願の学校へ入った。
違う生活をしているのに、会うのは、始めて出会ったこの場所。
定期検診を受ける為にクラブを休むらしい・・・
それなのに、私と一緒に居て良いのだろうか?
常勝と言われているのだから、練習だってキツイはずなのに・・・・
疲れた。
そんな言葉を聞いた事もなければ、態度も見た事もない。
凄い体力・・・
微笑みながら、水やりをしている姿を、盗み見し、体の中に溜め息を落とす。
今だ、心にある熱
あの日に言われた言葉
優しくて、掴めない性格に、何度も慌てる。
幸村くん!
何度、声に出しただろう・・・
再び、溜め息を体の中に落とし、花達と向き合った。
肩越しから名を呼ばれるまで、後、数秒
『テニプリ・手塚 国光』
小春日和の外に比べ、少し肌寒さを感じながらも、
窓際に座れば、暑いと感じる教室を出て、
『生徒会室』
視線の先にあるプレートを見上げ、ノックをした後、少し開け、
用のある人物に声をかけた。
「入っても良い?」
そんな言葉を言えば、眉間にある皺を深くしながらも、頷き、
中へ入る許可をくれた。
お邪魔します。
一言断りを入れ、近づけば長机の上には数枚の書類と書きかけの用紙があり、
邪魔にならないよう少し距離を空け、近くにあったイスに腰掛けた。
何の用だ?
表情と伝わる雰囲気に、言いたい言葉を感じ取り、先手を取る。
「日頃、お世話になっている礼です」
ラッピングされた物を差し出せば、更に眉間の皺が深くなる。
「まぁ、気にせず見てよ」
想像通りの反応に笑いながら言葉を続ける。
「手塚くんの、行きたいお店を奢ってあげるからね」
にっこり笑い、返事を待たず席を立ち、部屋を出た。
物言いたげな表情に、笑い声を殺すが、それでも我慢できず、
小さく笑い、中の反応を想像する。
置かれた物を気にしなが、少しペースを上げ作業を終わらせて、
中を見て、眉間に皺を寄せる。
置いて来た本は、
『安くて、美味しいグルメ』
バレンタインに礼としてチョコ渡すのを考えたが、
持ち切れない程のチョコを増やすのは面白くなかった。
だったら、今日の3月14日に、何かをした方が良いだろう。
そんな考えの元、実行に移した。
どっちにしても私が選ぶんだろうな・・・
先の事を予想し、その日を待つ。
『ホイッスル・風祭兄弟』
肌寒さを感じながら、ノリの効いた制服に袖を通すのを待っている、
ある日、一通の封筒が届いた。
季節文に体調の心配を書き、その下には、
自分の周りの出来事が書いてあった。
『九州では桜が満開で、お父さんとお母さんと功刀先輩の家族と、
お花見みに行きました。東京は、今頃だと、まだ蕾ですか?』
一足早く、春の訪れの報告に、自然と微笑みが出た。
「向こうは暖かいんだね」
夕ご飯の並べられた机を挟み、正面に居る功へ話を振れば、
影を背負い、哀しさを惜しみなく出す姿に、苦笑するしかなかった。
誰より、九州行きを反対したのは彼だ。
だか、押しに負けたのも彼自身。
どうする事も出来ず、ひたすら落ち込む彼を何とかしようと、封筒を握った時、
何か入っている事に気付き出してみると、写真が3枚入っていた。
家族と撮った写真
新しい制服を身に纏った写真
どちらの背景も桜を映していた。
制服姿の写真が2枚と言う事は、一人1枚と言う事かなぁ?
最後に書かれている文字に苦笑し、正面に座る彼に写真を渡せば、
影が無くなり、満足そうに何度も頷いた。
『サッカー、頑張ってね。でも、頑張り過ぎはダメだよ!』
表情と腰に添えられた手が思い浮かび、再び苦笑した。
PS、功兄に仕事頑張って。と、言っといて。
『ホイッスル・山口圭介』
昨日まで暖かかった日は雨に冷やされ、肌寒さを感じる程になった。
『卒業式』
1年間使った黒板には、大きく書かれた文字の周りには、
思い思いにメッセージが書かれていた。
浮きだった教室は外の雨も関係がないようだった。
時々光るフラッシュ
一緒にと誘われる写真
視線の先には、必ず彼女を捕らえている自分。
席に座り、渡されたアルバムを静かに見ている彼女に
どうしても話し掛ける事が出来なかった。
今日で最後なんだよな・・
同じ町内に済んでいるので、会おうと思えば距離なハズなのだか、
卒業と言う雰囲気に流される。
回りの仲間に話を聞きながら、ぼんやりと考え事をしていれば、
いつの間にかペンとアルバムが目の前に出されていた。
なんだ?
不思議に見ていれば、色ペンでメッセージが書かれていた。
書けって事か・・・
適当に書いて手渡す。
次から次へと差し出されるアルバムに適当に書き、自分の物にも書いて貰う。
クラスの大半に書かれ、後一人だけとなった。
今だ机に座っている彼女に書いてもらう為、数本のペンを握りしめ、
彼女の元へ向かう。
唯一言
書いてほしい。
その一言に、緊張し、足がすくむのが解った。
言えば良いだけだ。
そう、自分に言い聞かせ、彼女の前に立つ。
「あのさ・・・」
視線が絡み合う。
「コレに一言、書いて貰ってもらいたいんだけど」
自分の声では無い様な、そんな風に聞こえ、反応を待てば、
筆箱からペンを取り出し、小さな隙間に書いてくれた。
小さく、細く書かれた文字
『怪我をしないように』
頑張れ
でもなく
上を目指せ
そんな応援の言葉ではなく、気遣う言葉に嬉しくなり、
「オレも書いていいかなぁ」
そんな言葉を言えば、驚きながらも、真っ白のページが開かれた。
さて、何を書こうか・・・